「高血圧の薬はいつまで飲み続けるの?」「血圧が下がったら薬を中止していいの?」など、高血圧治療について気になる方も多いはず。
そこで今回は、高血圧の治療方法に関するよくある質問に現役薬剤師がお答えします。
高血圧とはなにか?
高血圧とは、安静にしている状態での血圧が慢性的に一定より高い状態のことをいいます。運動した直後や、たまたま計測した血圧の値が高いだけでは高血圧症と言い切れません。
血圧には、心臓が収縮したときにかかる収縮期血圧(上の血圧)と、心臓へ血液が戻るときの拡張期血圧(下の血圧)があります。一般的に、どちらか一方でも正常範囲を上回っていれば高血圧と判断されます。
高血圧症の患者数は年齢とともに増加し、男性は40代で3人に1人、女性は60代以降で50%以上とも言われています。判断の目安については、下の高血圧治療ガイドラインを参考にしてください。
成人における血圧値の分類(mmHg)
分類 | 診察室血圧 | 家庭内血圧 | ||
---|---|---|---|---|
収縮期血圧 (最高血圧) | 拡張期血圧 (最低血圧) | 収縮期血圧 (最高血圧) | 拡張期血圧 (最低血圧) | |
正常血圧 | <120 かつ <80 | <115 かつ <75 | ||
正常高値血圧 | 120~129 かつ <80 | 115~124 かつ <75 | ||
高値血圧 | 130~139 かつ/または 80~89 | 125~134 かつ/または 75~84 | ||
I度高血圧 | 140~159 かつ/または 90~99 | 135~144 かつ/または 85~89 | ||
II度高血圧 | 160~179 かつ/または 100~109 | 145~159 かつ/または 90~99 | ||
III度高血圧 | ≧180 かつ/または ≧110 | ≧160 かつ/または ≧100 | ||
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧140 かつ <90 | ≧135 かつ <85 |
参考:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
高血圧の主な原因
高血圧症の約9割は、原因がはっきりしない本能性高血圧症とされています。
本能性高血圧症の原因として、元々の体質といった遺伝的要因や、塩分過多・肥満・運動不足・ストレス・喫煙などの環境的要因が考えられます。
残る約1割は、原因が明らかな二次性高血圧に該当します。二次性高血圧の場合は、腎臓疾患、ホルモンの異常分泌、薬剤の副作用などが原因として考えられます。
高血圧を放置してはいけない理由
高血圧の状態を放置すると、心臓や身体中の血管に障害をきたし、血管が硬くなったり劣化します。これがいわゆる動脈硬化です。動脈硬化が進行すると、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・狭心症・心不全・心筋梗塞などを引き起こします。
また、高血圧が慢性化することで腎臓に大きな負担かかり、余分な水分や塩分をうまく排泄できないために、さらに血圧が上昇する悪循環に陥ります。
腎臓機能の低下による慢性腎臓病は、脳卒中・心筋梗塞・心不全などの心臓血管病を発症するリスクが約3倍※と言われています。
※二宮利治ら「慢性腎臓病の有無と心血管病の発症率(久山町研究より)」透析会誌2006
高血圧症の治療方法(非薬物療法)
高血圧症の主な治療は、食事や運動などの生活習慣を改善する非薬物療法と、降圧薬による薬物療法です。
非薬物療法は、食事中の塩分制限を基本とします。塩分制限以外には、コレステロール制限やアルコール制限、減量、適度な運動、禁煙、ストレス緩和といった生活習慣全体の改善を行います。
高血圧症の治療方法(薬物療法)
一方の薬物療法においては、降圧剤と呼ばれる血圧を下げる薬剤を使用します。降圧剤には様々な種類があり、年齢・性別や高血圧症の重症度、合併する疾患などを考慮して選択されます。
大抵の場合は少量の降圧剤を飲むことから始まります。血圧が下がらない場合は増量したり、2種類以上の降圧剤を併用することがあります。
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よくある質問①「高血圧の薬は飲み続けなきゃだめ?」
A. ”継続して飲んでいただくことが多い”です。
例えば風邪をひいたとします。
風邪はウィルスや細菌の感染によることが多いため、発熱や咳、鼻水などの症状がでます。この時は抗生物質や解熱剤などが処方されます。体の抵抗力や薬の作用により、ウイルスや細菌が体内からいなくなれば風邪の症状は治りますので、その後は薬を飲む必要がありません。
しかし、高血圧症の多くは長年の生活習慣や体質等が原因のため、残念ながら風邪のように短時間で完治するということが少ないです。
血圧の薬は、血圧が下がった状態を保つための薬と考えましょう。薬の服用を中止した途端に血圧が再び上昇しますので、継続して飲んでいただくことが多いです。
よくある質問②「薬の服用を中止してもいい?」
A.症状・場合によっては中止することも可能です。
肥満や過度の塩分摂取など、生活習慣に潜む原因を改善することで血圧を下げる(正常値を維持する)ことが出来れば、薬の服用を中止することも可能です。
他にも、冬場は寒くて血圧値が高いが、夏場は血圧値が正常という方は、夏場だけ薬の服用を中止することが可能な場合もあります。
ただし、動脈硬化による脳卒中や心筋梗塞などの病気を予防するためには、薬の服用を継続することが大切です。服用の中止にあたっては、必ず主治医やかかりつけの医療機関へ相談しましょう。
よくある質問③「塩分の取りすぎはどうしてよくないの?」
人間の体内は、約0.9%の濃度の塩水が保たれています(多少の個人差はあります)。濃度0.9%の塩水というと、1リットルの水に9gの塩分が溶けている状態。口にするとかなりしょっぱいです。
ここからは応用編。
例えば、食事から9gの塩分を体に取り入れた場合は、体内の塩分濃度を0.9%にするために約1リットルの水が必要になります。塩分9gあたり1リットルの水が体内に溜まるということです。
内臓が正常な状態であれば、余分な塩分と水分が尿として体の外に排出されます。
しかし、塩分過多な状態では排出が追いつかず、血中のナトリウム濃度が高まり水分が溜まります。血液量が増加すると血管を押す力が強くなり、結果として血圧が上昇します。これが「塩分の取りすぎは良くない」の答えです。
いかがでしたでしょうか?
高血圧症の発症リスクを抑えるために、日頃から適切な生活習慣を心がけましょう。
参考:国立研究開発法人国立循環器病研究センター「循環器病について知る」