最近再注目を浴びている「薬剤師のお仕事」。薬剤師のお仕事は薬局や病院の中だけではないことをご存知でしょうか?

今日は薬局から飛び出して、在宅医療研修の現場へ皆さんをお連れいたします!

在宅医療とは

手を握る車椅子の人

在宅医療とは、加齢や病気などにより、病院への通院が困難になった患者さまのご自宅に医師や看護師が訪問し、診察や治療などを行うことです。

日本は4人に1人が65歳以上という超高齢化社会。治療を受ける患者さまだけでなく、治療を支えるご家族の高齢化も進んでいます。そんな中、在宅医療は入院医療・通院医療に次ぐ「第3の医療」として注目されています。

訪問する医師や看護師・ケアマネージャー・薬剤師などが連携し、治療以外にも食事や生活の質、服薬状況等を把握しながらご自宅での療養生活を支えていく医療です。

在宅医療の特徴とメリット・デメリット

在宅医療の最大のメリットは、住み慣れた環境で療養できるということです。

入院生活では行動の制限があったり、入院している方々と一緒に生活することで、精神的なストレスを感じることが少なくありません。しかし在宅医療の場合、医師が認める範囲であれば好きなものを食べたり、好きな時間に入浴することが可能になります。

もちろんご家族のサポートが必要になりますが、患者さまにとっては入院生活と比べてストレスが軽減されるとも言われています。

家族にかかる負担が大きい

一方、在宅医療のデメリットとしてサポートするご家族の負担が挙げられます。

在宅医療では食事や入浴、排泄といった日常的な行動に加えて、服薬の世話なども家族がサポートしなければならない場合もあります。また、緊急時に備えて24時間対応の訪問看護サービスを利用するなどの体制を整えることが求められます。

これらは一般的な事例に過ぎません。患者さまやご家庭の状況によっても変わりますので、まずはかかりつけ医や施設にご相談いただくことになります。

在宅医療における薬剤師の仕事内容

多職種連携

在宅医療における薬剤師の仕事内容は、お薬の調剤・薬歴管理・服薬指導・服薬状況及び副作用等の確認・残薬管理などがあります。

患者様やご家族とコミュニケーションを取り、体調・生活状況・薬の効果が出ているかなどをヒヤリングし、担当医師やケアマネジャー等に情報提供を行うことも薬剤師の大切な役割です。患者様の健康状態や服薬状況によっては、担当医師に対して最適な処方の提案を行います。

在宅医療では、チーム医療として多職種の方々と連携していくため、正しく状況把握を行い的確に対応するスキルと高いコミュニケーション能力が求められます。

在宅医療における中心静脈栄養

点滴バッグ

中心静脈栄養(IVH)とは、高齢に伴う嚥下機能の低下などなんらかの事情で食事が摂れない人や、体力低下を防ぐ必要があると判断された人に有効な治療法のひとつです。

胸などにある太い静脈にカテーテル(管)を挿入して、糖質・アミノ酸・ビタミンなどが入った高カロリー輸液を点滴することで栄養を補給します。つまり、食事で摂れない栄養を血管に直接入れるということです。

一般的に中心静脈栄養法は病院で行われますが、ご自宅(在宅)でも行うことができます。

中心静脈栄養に使われる輸液

中心静脈栄養では患者さまごとに輸液の調製(必要な輸液を混ぜること)を行います。

輸液の種類は電解質輸液、栄養輸液、血漿増量剤等の3つに大別できます。それぞれの輸液について説明すると長くなってしまうので今回は省略します。

銀色のパウチ

こちらが実際の輸液バッグ。1袋あたり1Lありますので片手で持とうとするとかなり重たいです。

中心静脈栄養は体内に直接管を挿入しますから、細菌や異物の混入(コンタミネーション)があってはなりません。調製する時は雑菌が入らないように作業します。

中心静脈栄養とクリーンベンチ

クリーンベンチってなに?

私たちが生活している空間には目に見えないたくさんの細菌がいます。

クリーンベンチは、そうしたゴミやホコリ、浮遊微生物などの混入を防ぎ、無菌状態で作業を行うことができる特殊設備です。ちなみに日本語名は「無菌実験台」…そのままですね。ホウライの在宅課にもクリーンベンチが設置されています。

ガラス張りのケース

上の写真で、殺菌のためのUVランプが点いていることがおわかりいただけますか?

私は学生の頃、細胞(何の細胞かは昔過ぎて忘れました)を育てたりする作業をクリーンベンチでおこなったのですが、たまにうっかりUVランプを消し忘れて、肘から先だけ日サロ状態ということがありました。

しかし、今のクリーンベンチは最新のものなので、手前のシャッターを上げるとUVランプが自動で消えます。

中心静脈栄養の高カロリー輸液を調製しよう

輸液の調製作業を見てみましょう!

まず初めに、異物混入を防ぐために専用の衣装(防護服、帽子、マスク、手袋)に着替えます。あまりに完全防備なので誰か判らない感じの怪しさです。そして、かなり暑いです。

黄色い防護服の人

作業自体は「処方せんのとおりの輸液を混ぜるだけ」。

…なのですが、学生の頃に実習で1度しか作業をしたことがない私には、慣れないことの連続。扱いなれない太い針、手袋での作業などとにかく手こずりっぱなし。自分の不器用さにガッカリしてしまいます。

そこへ満を持して、病院出身の経験豊富な先輩が登場!

黄色い液体が入った点滴バッグ

初心者の私たちにも優しく丁寧に教えてくださったおかげで、無事に完成させることが出来ました。

薬局勤務だけだと、なかなか輸液の調整を行う機会はありません。薬剤師のお仕事の中には、座学を長時間やるよりも実際にやってみるほうが何倍も頭に入ることが沢山あります。

薬学生の皆さん、薬剤師の皆さんも、今回の研修のように体を動かしながらより実践的な薬学知識を身につけていってください!

参考:読売新聞オンライン『実は深刻「入院ストレス」…在宅医療への期待感』2017年5月31日掲載
厚生労働省 第1回全国在宅医療会議「参考資料2 在宅医療の現状」
厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室「在宅医療の最近の動向」
日本薬剤師会 副会長 山本信夫「在宅医療における薬剤師の役割と課題」